バタフライオンザリップ


春になったからといって誰もが浮かれているわけでもないのは僕が一番良く理解しているような気になっているけれど、公園の噴水の横のベンチで遅めのランチを食べてるサラリーマンや、電話しながら早足で横断歩道を渡るOLの方がよっぽど、僕よりもよっぽどそのことをわかっているのかも知れないし、あるいはそうでないのかも知れない。それは僕の想像し得る範囲ではないし、想像しなくてもいい範囲でもあるだろう。とここまで考えて、僕が一番浮かれているらしいことに気付く。

ああ、春だな。

緩やかな、時折強く吹く風が少し冷ややかだったり、ひねった蛇口から出る水に手を入れるのにためらわなかったり、そう、今この目の前にある花壇が賑やかに色をつけていたりすることに感じるのは、あたたかさ。僕は公園のベンチでそうやって季節を確かめられていることにも、あたたかさを感じずにはいられなかった。あたたかい。

こんな風に穏やかに時間を過ごすのは、きっと今日までなんだろう。だから今日くらいは味わっていたい。ベンチに背を預けて、目を瞑る。赤いまぶたの上に映るのは、気持ちいいくらいの春。

その時、僕の口に何か乗った。だけど僕は目を開けずにそのまま、春の中に埋もれた。なんでもよかった。このまま、僕は春になりたかった。

ふいに鳴るシャッター音。目を開けると同時に口から離れる。蝶。綺麗だ。僕を春から引き戻した音の持ち主から、目の前に差し出されたのは一枚のポラロイド写真。控えめに笑う女の子は、受け取った僕を残して去っていった。ここに春は来なかったらしい、まあ、当たり前だけど。

さて、と一言つぶやいて僕は立ち上がる。その写真をポケットに入れて、僕は明日から毎日見ることになる景色を見ながら歩く。写真には僕の春が、きっちり閉じ込められているといい。

明日、僕は社会人になる。


ζ*'ヮ')ζ<ほんとはわたしは明日から3年目です!