きみと15番教室と夕暮れで



私達はいつもそこにいたし、そこだけが私達の居場所だと信じていたことは今も変わらなくて、それだけが今の私を支えるたったひとつのあたたかさだった。


授業が終わると何の気なしにそこへ足が向く。クラスのある教室からは離れた、音楽室や家庭科室、そういった普段まばらに使われる教室たちが詰まった棟の最上階の一番端、そこに15番教室はあった。この棟には教室は全部で12しかないけれど、何故かここは15番教室と呼ばれていて、もうずっとその名前で呼ばれているようだったから、もともと何に使われていたのかはわからない。でも、私達にはそれはどうでもいいことだった。ここが15番教室だということだけで、私達には特別な場所だった。


15番教室は窓が大きかった。なんだか普通の家のような、この教室だけ少し外に張り出した部分があって、自由に出入りすることが出来た。日当たりは良くて、風も気持ちいい。以前に誰かが使っていたベランダチェアなんかが置きっぱなしになっていて、私達はよくそこでたわいもないこと、たとえば昨日白い鳩を見ただとか、猫のあくびが可愛かっただとか、ありふれてはいないけれど特別でもない、でも少し優しいような、そんな事々を私達は夕日色の空を見ながらよく話した。


15番教室にあったのは古いレコードやギター、コーヒーカップやオセロや、なぜだかたくさんの美術用具なんかが置いてあった。私達はよく昔の洋楽なんかを聴きながらオセロをしたり、15番教室から見える景色を描いてみたりした。私達はそういうことがしたいわけではなかったけれど、そういう時間がとてもいとおしかった。けれど、そういう時間がずっと続かないことも知っていた。


最後に15番教室に行ったのは、秋の終わりの、暖かいけれど風の強い日だった。15番教室に入ると同時になんとなく、ここに来る事はもうないだろうなと思っていた。そういう雰囲気が15番教室には漂っていて、ここはもう私達の場所ではなくなっていた。その日、私達は初めてコーヒーカップを使った。少し甘いカフェオレを、私達は時間をかけて味わった。甘さはいつまでも口の中に残っていた。


今でもふとした瞬間に思い出すことがある。それは懐かしさとか甘酸っぱさとか、そういったものを全て含んでいて、私はそれを甘いカフェオレと一緒に飲み干す。口の中に残ったのは、夕暮れの切なさと15番教室の暖かさと、私達の幼さだった。今ならもっと分かり合えただろうか。そんな事を考えながら、私は紫色の空に背を向けて歩き出した。



かしこ   thanks to @nya_ko.