手のひらの事情



彼女が泣いている。


どうしてなのかな、最近まですごくごきげんだったんだ。「朝弱いんだよね…」とか言ってギリギリまでいつも起きてこないくせに朝からテンション上がっちゃってたし、帰ってきたと思ったらその日のこと、何も聞いてないのにボクにすぐ話してくるんだ。ボクだって暇じゃないんだよ?


どうやら恋をしたらしい。相手はひとつ年上のバスケ部の先輩だって、すごく優しいんだって。どこがいいのとか聞いてないのに「背が高くてね、笑顔が素敵でね、とにかく優しいんだよ!」って。ボクは、いやわかんないよ外面だけかもしれないじゃん、とかって言っちゃおうかと思ったけど、彼女があまりにも一人で舞い上がっててほわほわしてるのを見ていたら、まあ楽しいんならいいか、と思って言わなかった。


それなのに、泣いている。帰ってきたと思ったらすぐ部屋に入ってきて、崩れ落ちるようにして泣いている。さすがのボクでもどうしようもない。じっと見守るしかない。とりあえず、何があったのかを考えよう。「友達と喧嘩した」?…うーんそれじゃ落ち込むか怒ってるかどっちかだもんなあ。「テストの点が悪かった」?…いつも悪いんだから今更だしなあ。「先輩にフラれた」?…これだろうなあやっぱり。でもそんなこと言ってなかったしなあ。でもそんな類のことなんだろうな。


日も暮れて部屋は真っ暗、やっと彼女が泣き止んだ。電気付けなよ早く。うわ、目真っ赤じゃん。どうしたのさ、今日はまともに聞いてあげるよ。なに「先輩に彼女がいた」?ああやっぱり。そんなことだと思ったよ。うん、うん。手繋いで帰ってるの見ちゃったんだ。嫌だよねーそういうの。いやわからないけどさ。ああもう自分で言って泣くなよもう。本当に好きだったんだね。


馬鹿だなあ、そんなに泣くなんて。ボクがいるじゃない。ずっと一緒にいるのにさあ。


こういう時、すごく思うんだ。彼女の頭を撫でてあげられる手のひらが欲しいな、って。ぴったり寄り添ってはあげられるけど、抱きしめさせてあげることも出来るけど、それじゃ足りないんだ。ぷにぷにした肉球のついたこの手じゃ、都合の悪いときもあるんだ。叶わないのはわかってるからこうしてそばにいてあげる事しか出来ないけど、涙を掬ってあげられるような、包んであげられるような、人間の手のひらが欲しいなって、こういう時、すごく思うんだ。



かしこ