星空ブラックボード


星座を考えた人ってどんな人なんだろう、ってたまに思うことがある。


夜になったらなぜか暗いのに空にはあやしく光ってるなにかがある。それを誰にも見えない自分だけの線で繋いで、何か違うものに例える。それが今の今まで残ってるなんて、まさかみんなが知っているなんて、想像したんだろうか。

きっと、そんなことなんて考えてもいなかったんだろう。ただ綺麗だったから。ただそういう風に見えたから。そういうの、すごくいいなって思う。

あたしは星空が好きだ。でも理由はうまく言えない。自分の部屋の窓から見上げる綺麗な星空も好きだし、川辺に寝転んで曇った空の中にひとつしか見えない星空も好き。どんな時でも、星空さえ見られればやっていけると思っていたし、もちろん今でもそう思ってる。それくらい、あたしにとって星空は特別なものだ。


いろいろ上手くいかなくなったな、と思うようになったのは最近の事じゃない。働き出してからというもの、それは常々感じていることだった。仕事にしても、人間関係にしても、環境の違いがこれだけあたしを追い込むとは思っていなかった。何が出来て何が出来ないのか。どれが必要でどれが要らないのか。そういう分別みたいなものが、天秤の掛け方みたいなものが、わからなくなってきてるみたいだった。

あたしだって、一応はバイトとかもやってきたけれど、違う。生身で受ける感覚とか、人の言葉の重みとか、まるで違う。ここにいるのはあたしなのに、あたしじゃないような、そんな感じ。足元からなにか黒いものが入ってくるような居心地の悪さを感じていた。


終電にギリギリのところで間に合わなかった。タクシーに乗るのも…明日は休みだし、歩いて帰ろう。1時間ってところだろうか。

風が気持ちいい。川沿いの道は電燈もあまりなくて少し心細い。ふと思い出したように空を見上げてみた。

綺麗。いつもと同じ、だけど少し違うように見える星空。そういえば、最近上を向いていなかったなあと、凝った肩の痛みを感じながら思う。何で忘れていたんだろう?いつもこんなに、夜空はあたしの上に降りていたのに。

いつかやったみたいに、川辺の草の上に寝転んでみる。今日は満天の星空だ。星を掴んでみたいと思って、あたしは手を伸ばす。掴めないことはわかってる、けど、そうせずにはいられなかった。

指で星達を繋いでみる。どこまでも自由に、どこまでも遠くまで。夜が滲んでいく、あたしだけの線が滲む。そうだ、これだったんだ、あたしが欲しかったもの。変わっていったって、繋がっていたい。あたしでいたい。

ひとしきり声を上げたら、もう夜空は滲んではいなかった。すっきりした、これまでで一番綺麗な星空だった。あたしの星座は、あたしの心の中にそっとしまっておいた。


立ち上がって服についた草を掃って、ぴんと背筋を伸ばして歩き出す。あたしの心はもう、夜空であたしを描いているような気がした。


かしこ