眩暈



ふと、目に映る景色が全て偽物だったら?という不安が過る。

綺麗なチェロの音色も、凛とした百合の匂いも、癖のある甘いキャスターの味も、手に感じる風の息づかいさえも、すべてが偽物だったとしたら――。

ふと、たとえば白鳩が車に轢かれるのを見た時に、たとえば深く暗いベースの音がわたしの脳を貫いた時に、たとえば隣にいるあなたの温もりを感じられない時に、その不安はわたしの容量を軽々と超えて目の前に現れたりする。



それはブラックホールのようにすべてを取り込みながらわたしの中に入ってこようとする。受け入れずにいるとそのうちわたしをも取り込んで、堕ちていく。何処までかわからないほど遠くなる、灰色の空、あなたの目。

薄れゆく映像の中で、偽物の世界だけがわたしを包み込んでいた。